鳥飼否宇(とりかいひう) 1960年生まれ
□ 樹齢 東京創元社 ミステリ・フロンティア
あらすじ
植物写真家の猫田夏美が北海道で巨木撮影をしていた。途中、移動した巨木の噂を聞き、現地に向かう。
そこでは、巨木の他にもナナカマドが移動する怪事件が起きていた。そして起こる道議会議員の失踪、
再び起きる巨木の移動、さらには墜落死体の発見。
猫田は<観察者>探偵に助けを求める。<観察者>探偵シリーズ。
<観察者>探偵のシリーズもののようですが前作を読んでいなくてもそれほど問題なく読むことが出来
ました。前作のネタバレといったところも全くありません。ただ、主人公の猫田の描写が少なく、読み進んで
情報が揃うまでは外見等のイメージがしにくかったです。初め猫田はは男かとさえ思ってました。
探偵役に冠されている<観察者>というのも、そこまで言われるほどなのだろうかと、前作を読んでない
せいかかなり引っかかりを覚えました。
帯にはトリックの乱れ打ちと書かれてありましたが、あまり乱れ打たれたという実感はありません。1つ
1つの印象が薄いせいかもしれません。伏線は多く張られていましたが、あまり驚きにつながってなかった
です。本格ミステリに現実的な要素をいれすぎて薄味になったという印象。
登場人物達が推理するのはいいのですが、簡単にその推理を検証できそうなのにそれをしないで
話を引っ張るのは読んでいて多少イライラします。
この話ではアイヌの人々が深く関わってきますが、アイヌ語特有の名称になじみがなくて混乱したりし
ました。アイヌの考えみたいなのが分かったのは良かったですがもっとわかりやすく深く掘り下げて欲し
かった様な気がします。
出だしだけだと、作者がアイヌ擁護一辺倒の姿勢で変な思想でももっているのかと思いましたが、一応
の公平性を持った視点でした。
主人公が、アイヌの人の考えなら感心するけれど、似たり寄ったりの考えの脇役をボケナスといったりす
るダブルスタンダードぶりはどうかと思いましたが……。
社会批判が多いところは少しうんざりするところがありました。事件の性質上仕方ないのですが、あま
り社会批判がない方が私の好みです。批判されるような登場人物たちの憎たらしさはかなりのもので、そ
ういうキャラクターを描くのがうまい作者だと思います。
シリーズの最初から読むべきだったと思える作品でした。最初の作品がつまらなければ本作は読まなか
っただろうし、おもしろければ今回はハズレだったなと感じたでしょう。
□ 中空 角川文庫
あらすじ
竹の花を撮影に鳶山と猫田は竹茂村を訪れた。老荘思想を規範に暮らす7世帯の村人たちは20年前の連続
殺人事件を引きずりながら暮らしていた。そして村で再び殺人事件が起きる。
簡単な紹介からも漂って来る通り、本作は横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しているそうです。さすがに
横溝作品ほどのオドロオドロしさはなく現代の空気を多分に含んでいます。
前回読んだ樹霊に続き「観察者シリーズ」第1作です。この話を読むとどうしてもQEDシリーズの3人組を思い
出してしまいます。
猫田→ワトソン役 鳶山→変わり者でマイペース、探偵役、酒好き
甚平→熊っぽい
奈々→ワトソン役 タタル→変わり者でマイペース、探偵役、酒好き
小松崎→熊っぽい
テーマの1つである竹もQEDシリーズで扱っていたりと、話を構成する要素がかなり似ている気がします。
しかし受ける印象はまるで違います。
QEDシリーズでは殺人はオマケに近く、それぞれのテーマを徹底的に掘り下げています。それに対し本作は
あくまで殺人事件が主体で、竹や老荘思想はそれらを盛り上げる小道具に徹していて、正統派ミステリです。
主人公がワトソン役であるが故の、探偵のもったいつけや主人公のど忘れ、見落としが多少気になりました。
一応クローズドサークルものなのですが、その理由づけが弱いような気がしたのもちょっと残念な所でした。
夢中になって読むことはありませんでしたが、飽きたりもせず読み終えることができました。
無難な面白さです。
次作の「非在」も読みたいと思います。
2007/04/20
□ 非在 角川文庫
あらすじ
奄美大島の海岸に流れ着いたフロッピーに記されていたのは奇怪な日記だった。大学のサークルが行った人魚
などの調査記録、その最後に記されていたのは殺人事件を告げるSOSだった。警察が捜査に乗り出すが、それ
とおぼしき島には誰もいない。フロッピーを拾った張本人である猫田は幻の島の調査に乗り出す。
手記に書かれた内容を検証するという点では「黒猫館の殺人」と似てたかなと読み終わって思いました。
実際、話の展開は似ていましたが、舞台は絶海の孤島だったり黒猫館とは大分違い、あまり似ていることを
意識せずに読むことができました。QEDシリーズを思い出させる例の3人組がいたことも黒猫館を意識せずに
いられた理由かもしれません。
それにしてもこの3人組には絶海の孤島に殺人犯と隔離されているという緊張感がまったく感じられません。
前回もそうでしたが、いまいち閉じこめられている恐怖や緊張感がなく、従来のクローズドサークルもの
を期待してよむと肩すかしを食らってしまいます。ただ、それが作風だと納得すればおもしろく読み進める
事ができると思います。
主人公たちが島に到着したときにはすでに事件のほとんどが終わっていて、島の状況から何があったのかを
推理するというのが、あまり読んだことのない趣向なため特に面白く感じました。ゲームというかパズルに
挑戦するような感覚。
ネイチャーミステリと銘打ってある割には感心するほど自然の描写や説明がなかったような気がします。
「観察者」という呼び名を持つ男がいるのならもう少しマニアックな説明が欲しかったです。
前回に続いてこの探偵役の男のもったいつけと説明不足はもう少し控えめにして欲しい。
次は「密林」を読んでみたいと思います。
2007/04/22
□ 密林 角川文庫
あらすじ
沖縄やんばるの森で昆虫採集をしていた松崎と柳澤は軍から脱走したとみられる米兵と台風で避難し
ていた猟師に会う。コールマンから宝の地図を受け取るがそれは暗号でかかれていた。2人と猟師、
コールマンの命をかけた三つ巴の宝探しが始まる。
文庫の裏のあらすじは、流れは合っていますが適当すぎるので参考にしない方が良いと思います。
一応観察者シリーズですが、観察者は終盤にならないと出てきません。観察者鳶山が登場すると、
前半までの極限状態や緊張感がまるでなくなります。第T部のB級映画のワンシーンのような展開が
好きだったので残念です。
舞台が沖縄だけあって様々な動植物が登場しますが、もう少し詳しい描写や驚きの生態みたいなの
が欲しかった。
謎解きというよりもB級映画の次の展開を予想するノリで読むと面白い話だったと思います。
2007/05/15